”知らなきゃ損する”医師のためのキャリア・転職の用語集

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キャリアにもいろいろな理論があるんです

古いものもあるのですが、ここでは今も使えるものを中心に掲載しました

キャリアデザイン

キャリアの第一義的な意味(=ワークキャリア)としては“今までの経歴や職歴”ということでしたが、それを踏まえてこれからの自分の生き方を考える、思い描くことをキャリアデザイン(もしくは形成)と呼びます。現在の医師のキャリアについては初期研修から自分の研修先を選び、その後は何科を選ぶか、後期研修をどこで行うか、専門医取得はどうするか、学位の取得は?といった個々の目標を描き、それをその都度どのようにデザインしていくかを考える必要があります。

ではデザインをするにあたってどのようなことを考えることが必要なのでしょうか?

私は以下の3つの要素が重要だと考えています。

(1) 自己理解
(2) 仕事理解
(3) 労働市場の理解

(1) はキャリアの用語集で述べたように自分を知ることです。自分の興味関心、価値観、能力などを総合的に判断するということ。

(2) は世の中にはどんな仕事があるかということを知ることです。一般の大学生であれば卒業学部に関係なく色々な仕事につきます。銀行員になるもの、商社で働くもの、教師になるもの、IT関係で働くもの。世の中にはありとあらゆる仕事が存在します。一般の大学生は2年3年あたりから色々な業界研究をしてその様々な仕事の存在を知ります。医師になる方も医学部に入る前になんとなくいくつかの興味のある診療科をイメージしていたりしますが、具体的には4年生くらいから始まるポリクリなどでどんな診療科が存在するのかということを認識します。

(3) 労働市場の理解については医師がキャリアデザインする場合の大きく欠けている要素の一つです。医師は公職という考えがあり労働市場という考えはあまりピンと来ないかもしれませんが、医師の偏在という言葉があるように医師の数はそのニーズに対して決して均等ではありません。よく言われるものとしては地域による医師数の違い、診療科での違い、勤務医と開業医の違いなどがあります。また医師がキャリアを自由に選べるようになった分、求人側も先生方を選べるようになっています。つまりそこには需要(求人)と供給(医師)の関係が存在するのです。

したがって給与ということでいうと例えば医師不足である埼玉県では全体的に給与が低めなのに対して、東京ではそれほど高額な給与は望めない、内科については求人が多いが、外科は医局派遣などのチームで動き、また働く場所が限られるということで求人が少ないなど、専門の診療科を何にするか、どこで働くかということでその市場は変わってくるのです。

これは大学医学部では学ぶことが出来ません。将来的な求人ニーズについてはその時代によって変わることはありますが、自分が進みたい診療科や地域についての医療ニーズや求人の数などは最低限調べておくべきでしょう。

つまり自己を知り、相手を知り、そこから導かれる進路についての状況を知り、その上で自分はどういった職業イメージがあっているのかを考えることが必要になるのです。

そして実際研修先病院を見学する、自分が興味ある病院や診療科の先輩に話を聞く、我々のようなキャリアコンサルタントに相談するなどで自分の進みたい方向性を調整し、キャリアデザインが出来上がります。

なおこのデザインは医学部卒業の時だけではもちろん終わりません。ワークキャリアにおける節目(初期研修修了、後期研修修了、専門医取得など)やライフキャリアの節目(結婚、お子様の誕生、両親の介護)などにおいてキャリアデザインは再構築または修正を図ることが必要なのです。

プランドハプンスタンス

スタンフォード大学のクランボルツ教授によって考案されたキャリアの理論です。

プランドハプンスタンスは日本語に訳すと「計画された偶然性」となります。“偶然におきる予期せぬ出来事からも自分のキャリアは形成され開発されるものであり、むしろその予期せぬ出来事を大いに活用すること、偶然を必然化することが大切となっている”(キャリアカウンセリング/宮城まり子(駿河台出版社)より。

実はある調査によるとキャリア選択のきっかけの80%は偶然というものがあります。

偶然か必然かという線引きは難しいですが、思わぬきっかけで自分のキャリアが決まったという経験は皆さまも多いのではないでしょうか?逆にイチローのように小学生から野球選手を目指しまさに今野球選手をやっている、そんな方というのは非常に少ないのではないかと思います。つまりキャリアというのは用意周到、綿密に計画し準備できるものではないということです。ただ偶然をひたすら何も考えずに待っていてもよいキャリアというのは生まれません。

クランボルツ教授によると偶然を有効に利用し自分のものとするには以下のような行動指針が必要と述べています。

(1)「好奇心」 ―― たえず新しい学習の機会を模索し続けること
(2)「持続性」 ―― 失敗に屈せず、努力し続けること
(3)「楽観性」 ―― 新しい機会は必ず実現する、可能になるとポジティブに考えること
(4)「柔軟性」 ―― こだわりを捨て、信念、概念、態度、行動を変えること
(5)「冒険心」 ―― 結果が不確実でも、リスクを取って行動を起こすこと

つまり何事にも前向きに行動していくことが大事で、その中で偶然の機会が生まれ、それをつかみ取る主体的な行動が大切だということですね。今や一般のビジネスパーソンにおいてもどこそこの大企業にいけばその後人生は安泰ということはなくなってきています。多少そのような傾向はあるにせよ、企業の規模に関わらず仕事の環境やその内容というのはめまぐるしく変わりますし、今の仕事が30年後もあるかなんて誰も予測できません。そういった時代の変化の中でキャリアを築いていくには仕事が自分の前に降りてくるということはなく、会社の中でも自分の仕事を見つけ自分なりのスタイルを獲得していく必要がありますし、自分の仕事がなくなる、今の会社で能力が発揮できないときには自分で仕事を探さないといけないということにもなります。医師においては2004年まではどちらかというと主体性がなくても医局が仕事を用意し、医局員である医師はそれに従っていけばいいという時代がありましたが、今は医学部を卒業すると自分でキャリアを創っていかなければならなくなりました。そこには自己理解や雇われる能力を磨くのと同時に変化に対応する中での偶然も重視しなければならなくなったのです。

キャリアの発達とライフステージ

キャリア心理学者、コロンビア大学名誉教授のスーパーはキャリア発達を人間の発達と関連付け、人の一生をいくつかのステージに分け、生涯にわたってキャリアは発達し変化するという理論を発表しました。

具体的には第一期(成長段階0~14歳)、第二期(探索段階15~24歳)、第三期(確立段階25歳~44歳)、第四期(維持期45~65歳)、第五期(衰退期66歳以降)となり、ワークを中心に一人の人生の成長から衰退までを一つのサイクルにまとめています。そしてこの理論が発表された段階においては、このサイクルに合わせたライフステージがあり、人間の一生において節目となる出来事(出生、入学、卒業、就職、結婚、出産、子育て、退職等)によって区分される生活環境がありました。これはキャリアの発達とライフステージが同期しており、キャリアの発達と共に結婚をし、家族を養い育てるということが一般的なキャリアモデルとして存在し、多くの方がそれを目指していました。しかしながらこのキャリアの発達とライフステージの同期は近年崩壊しています。

例えばワークにおいていえば、転職というのが一般化していますし、入社3年目で仕事を辞めてしまう人も多い、つまり25歳から仕事をしたとしてもそれが必ずしも自分の成長やキャリアの発達につながらない場合もあるということ。ライフについていえば、結婚についての概念が多様化し、また晩婚化により適齢期というのが意味を持たなくなってきているなどです。そういった多様な価値観においてはキャリアの発達とライフステージが必ずしも同期しないということ。その中で一人ひとりがどのようなキャリア形成を願い、またライフを構築するのかということが重要になってくるのです

医師の方においては昔から、何年も浪人をしながら医学部受験をする方がいらっしゃいましたし、近年では社会人入学して医学部に入る直す方もよく見受けられるようになりました。30代、40代の研修医も決して珍しくありません。また女性医師の増加に伴い、研修医以降、様々な医師としての生き方を模索されるようになってきています。お子様が生まれても医師としてのワークを最も重視される方、子育てに専念される方、その考え方は多種多様ですが、医師のキャリアの発達についても一様のモデルがあるわけではなく自分がどのように生きたいかということをワークキャリアとライフキャリアの視点から考察し、そのステージごとに変更をしていく時代になっているのです。

キャリアトランディション

元全米キャリア開発協会のシュロスバーグによると、人生はトランジション(転機)の連続からなり、人のキャリアは、それを乗り越えるプロセスを経て形成されていくとし、トランジションを乗り越えるための対処法(4-Sモデル)を提唱しています。キャリアが発達していく中では誰もが会社や職場が変わったり職務内容が変わることが頻繁にあると言えます。この転換期を乗り越えるためのフレームワークが4Sと言われるもので、

situation(状況):転機がもたらした状況が自分にとってどのようなものなのか?またそれが一時的なものか、長期的なものなのかを評価する
self(自分自身):その転機は自分にとってどれくらい重要か、自分の性格や価値観を通して検討する
supports(支援):家族や友人はその転機に関してどのようなサポートをしてくれるのか、理解はしてくれるのか
strategy(戦略):その転機を受け入れ、乗り越えるため戦略を考える

ということになります。

またこのようなトランジションは次の要素があります。

例えば医師の場合でいうと、「イベント」の場合初期研修を受け修了する、専門医を取る、大学院に入るなど。反対に「ノンイベント」は初期研修をメンタルの不調で修了できない、専門医の試験に落ちる、大学院に入る前に親の介護が発生し入学ができないなどのことです。イベントやノンイベントに関わらず、医師であっても人生の転機は訪れます。若手医師の場合、医局の派遣で自分が予想していなかった派遣先に就業することになるかもしれない。そんな時に4Sチェックをして、自分がその転機をどのように受け入れ乗り越えていくかということが重要です。なお我々が行っている医師の転職支援においても4Sのうちどれかが抜けているとその転職がうまくいかない場合があります。例えば自分ではよい転職先だと考え候補先から内定をもらったがその後家族の了解を得れないことが分かった。

給与が魅力で転職を考えたが、転職後によく考えたら自分が予想していたようなやりがいを感じずその転職は失敗だったというような例です。

転職をする場合はその転機を受け入れうまく乗り越えるための準備と検討すべきポイントがあるのです。

キャリアストレッチ

従来型のキャリア論においては、自分のキャリアを充実させる、または成長させる考え方として外的キャリア(職種、職歴や給与)を上げていくキャリアアップという言葉が一般的にありました。もちろん役職や給与が上がることにおいてその職域が拡大したり、責任のある職務についたりということでその考えはまだまだ存在しますが、実はキャリアアップというのは和製英語です(英語で近い表現はadvance)。つまり用意された階段を一つ一つ登ってキャリアが上昇するのは日本特有のものであります。しかしながらその慣習は崩壊しつつあり、働く場所や会社の環境の変化により、外的キャリアだけに注目するとアップもダウンもあり、日本的慣行であった年功序列という考えは通用しなくなっています。なおアップやダウンもしながらキャリアを継続するのはハイキングの理論とされます。

そのような状況の中で、キャリアを能動的、主体的に構築する一つの考えとして慶応大学の花田先生は、キャリアストレッチという考えを提唱しています。

著書「働く居場所の作り方」において
“キャリア構築のプロセスでは自己実現の目標のために決まりきったプロセスで対応するのではなく、目標達成により生み出される価値を念頭において、プロセス対応に幅をもたせ、自分の中にある多様な可能性やチャンスを追及し、ダイナミックに、そしてフレキシブルにプロセスを再構築する考え方でもあります。(中略)この成長を重視する考え方で、オープンマインド、アンラーニングを通して色々な可能性にチャレンジすることが重要となります。(中略)失敗しても成功しても、むしろそのチャレンジにより、自分の対応の幅が広がることが重要であり、その対応の幅とは日常の工夫による、人間性の幅の拡大であり、それをストレッチングと呼んできました”
私のキャリアコンサルティングの場においては、このストレッチングの考え方を対応の幅を広げるということ、新たな何かにチャレンジすることを大切にしています。

一例でいうと、以前35歳、大学医局在籍の神経内科の女性の先生がいらっしゃいました。結婚をしお子様をも生まれたということで今は非常勤で大学に勤務しているが、常勤で勤務するにあたって定時で上がれる健診の医師になるかどうか迷われ相談に来られました。私としてはそのご意向も大切にしながら、これまでのキャリアを大切にしそれをストレッチさせる働き方を考えませんかと提案し、回復期リハや療養型での勤務を提案しました。今まで大学医局からの派遣では一般病院での忙しい勤務でしたが、神経内科の専門性をそこで切り、健診にキャリアチェンジするのはリスクもあると考えたのです(臨床の現場と健診の現場では働き方や勤務内容に大きな違いがあります)。つまり専門性はそのまま維持し、働き方を一部変え、専門性をストレッチするというものです。

医師の方は意外にも自分の医局以外、専門の違う診療科での働き方や特徴をあまりご存じではないことが多いようです。働き方を変更したその先に明確なビジョンや目標がないのであれば、一度ご自身のこれまでのキャリアを振り返りその経験、スキルである程度活用できる分野はないかを探すのはキャリアを継続していく上で賢い考え方になります。

*オープンマインド:他人の意見にも耳を傾け、様々な意見を受け入れる心を持つこと
*アンラーニング:自分の思い込みやバイアスを開放し自分の中での様々な多様性に気づくこと

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